日々本 其の五十四「監督」

『プロ野球にとって正義とは何か』(手束仁/イースト・プレス)

民放でのテレビ放送が少なくなって衰退が一時叫ばれたけれど、人気チームではほぼ毎日3~4万人の観客を集めるプロ野球。こんなスポーツは日本ではいまだ他にない。今シーズン、久しぶりにスタジアムでどんなことが行われているか、詳細に見る経験をしているのだけれど、それはそれは他のスポーツ以上のファンサービスがこれでもかというぐらい行われている。この動員力の陰にこの努力あり、である。

そのプロ野球で、近年最も優秀な成績を収めていた監督のひとりである中日・落合監督が、昨シーズン終盤に解任発表され、それでさらに発奮したチームが優勝を飾ったのは記憶に新しい。04~11年の8年間、落合監督率いる中日は1位4回、2位3回、3位1回の成績を収め、07年はシーズン2位ながらクライマックスシリーズを勝ち上がり日本シリーズも制して日本一になった。これだけの実績を残していながら、「勝てばファンが喜ぶ」という話が成り立たず、ファン離れと人件費高騰が解任の理由だという。そうなると「プロ野球の正義は何なんだ?」というのがこの本のテーマである。

僕はプロスポーツには2つの側面があると思う。プロのパフォーマンスを見せる、ということと、もうひとつは、勝負を見せる、ということである。スポーツ自体はルールに基づいた上で勝つことを最大の目的としている。その目的を追求することでプロのパフォーマンスを生み出し、勝負も生まれる。なので、勝つことを目的としないプロスポーツなどあり得ない(僕が知る限り唯一プロレスのみ例外で、勝つことよりもパフォーマンスに重点が置かれているが、それでもある意味プロレスも勝負を見せている)。

勝つためのパフォーマンスを追求し、それが極められれば極められるほど、勝つ確率が高くなり、勝ち続けると勝負を見る興味が薄れていく。この時点で生まれてくる大きな矛盾。落合監督の最後の3年間の動員数は、5年目に記録した249万人台というピークと比べて-13万、さらに翌年-10万、さらに次の年つまり最終年-5万人と下降線を辿り、2位、1位、1位という成績と反比例している。減っているというところをクローズアップすると、この矛盾のケースに当てはまっていると言えるかもしれない。

しかしながら、下記に挙げた過去の強かった監督や人気があった監督の例を見ると、観客動員数の上下動が、長嶋監督に続いて少ないのが落合監督とも言える。川上監督(最大−最少)68万人、長嶋監督(最大−最少)15万人、森監督(最大−最少)36万人、そして落合監督(最大−最少)28万人。この点をクローズアップすれば、観客動員数が安定している監督と言えなくはない。そしてこの期間、勝っていなかったらもっと動員数が下がっていたかもしれない。

この本では、チームを経営しているのは株式会社であり、従って営利を目的として「勝つことと儲かることを並行して実現していくことが理想的なプロ野球球団のあり方」ということがひとつの結論となっている。僕はここに少しばかり違和感を覚える。「勝つこと」の半分は監督の仕事、もう半分は会社の仕事、さらに「儲かること」も会社の仕事、だから単純に言うと、「勝って儲かること」の3/4は会社の力、1/4が監督の力によるのではないか。あまりにもすべてを監督に委ねて過ぎているのが、日本のプロ野球、いやプロ野球だけでなく、そしてプロだけでなく、あらゆる日本のスポーツの傾向なのではないかと思うが、どうだろう。

日々本 第54回 針谷和昌)

巨人 川上監督(9連覇)
‘65 [1位] 230 万人
‘66 [1位] 233 万人
‘67 [1位] 208 万人★
‘68 [1位] 213 万人
‘69 [1位] 226 万人
‘70 [1位] 250 万人
‘71 [1位] 236 万人
‘72 [1位] 230 万人
‘73 [1位] 276 万人☆

巨人 長嶋監督(第1次)
‘75 [6位] 283 万人
‘76 [1位] 294 万人
‘77 [1位] 294 万人☆
‘78 [2位] 281 万人
‘79 [5位] 279 万人★
‘80 [3位] 280 万人

西武 森監督
‘86 [1位] 166 万人
‘87 [1位] 180 万人
‘88 [1位] 189 万人
‘89 [3位] 194 万人
‘90 [1位] 191 万人
‘91 [1位] 198 万人☆
‘92 [1位] 190 万人
‘93 [1位] 162 万人★
‘94 [1位] 168 万人

中日 落合監督
‘04 [1位] 233 万人
‘05 [2位] 228 万人
‘06 [1位] 239 万人
‘07 [2位] 239 万人
‘08 [3位] 242 万人☆
‘09 [2位] 229 万人
‘10 [1位] 219 万人
‘11 [1位] 214 万人★

☆:最大 ★:最少

hariya  2012年4月11日|ブログ