日々本 其の二十「これから始まる真の危機」

『官邸から見た原発事故の真実』(田坂広志/光文社新書)の話の続き。

リスクマネジメントが成功した時には、何も起こらない、と著者は語る。確かにそれはマネジメントが成功したことに他ならず、考えてみれば世の中でこれがたくさん成功しているから上手く行っているとも言える。多数の成功は話題にならず、上手くいかない時に起こる事件や事故がニュースになる訳である。

著者は、経済優先主義的な判断を混入させて、「その対策をとらなくても何も起こらなかったのではないか」と批判したりすることが、原子力の安全を損ねる最も大きなリスクを引き起こしていると言う。空振りコストは覚悟する、という原理をとるべきだと言う。

著者はまた、物理的被害、経済的被害だけでなく、今後、今回の震災での精神的被害が最も大きな被害になってくることを理解しなければならないと言う。極めて大きな社会心理的リスクが、社会心理的コストとなって跳ね返ってくる。その社会心理的費用も、原子力発電コストであるのである。

さらに、これからの国家的・国民的挑戦は、「計画的・段階的に脱原発依存を進めていく」ということであると説く。それは当面、再稼働困難な原発、あるいは寿命による廃炉となる原発の代替を、短期的には省エネと化石エネルギーによって、そして長期的には自然エネルギーにより行っていく、というビジョン。

昨年、「これからのエネルギーを考える」という私的なミニ・シンポジウムを友人たちと開いた。会も終盤に入り、これからどうしていくのが良いかを選択しようとした時に、大部分の参加者が「段階的な脱原発」を支持した。1人もいないので僕はあえて「即刻脱原発」に手を挙げた。それぐらい逃げ道がないところから本気にならないと、新しいエネルギーシステムは構築できないのではないかとも思ったからである。

でもこの本を読んでもう一度考えさせられた。即刻、省エネや火力エネルギーで原発なしによる電力不足分を補おうと試みて、一般生活面でも経済的側面でも上手くいかなかった場合、やっぱり原発は必要、という方向に大きく振り戻るのではないか。だとすれば、緩やかな移行の方が結果的に脱原発に繋がる気がしてきた。

「それでも10年後!?」と思わず余白に書き込んでしまった部分がある。昨年6月のに「オープン懇談会」を行いネットで生放送して15万人が見て1万5千件のコメントがあったそうだ。その延長線上に国民投票があり、原発もこういう形式で「将来のエネルギー源」についての国民的選択を行うべきだと言う。

そのことに関しては異議はないのだが、その時期について震災から10年後の「2021年3月11日」を提言したいと書いてある。それまでの10年間、原子力エネルギーの安全性への挑戦、自然エネルギーの基幹性への挑戦、化石エネルギーの環境性への挑戦、省エネルギーの可能性への挑戦、という4つの挑戦を行い、その上で国民的選択を行うということ。改めて、この問題のスケールを実感させられ、途方にくれる気分になる。

それでもこれまでのやり方を反省し「原子力行政と原子力産業の徹底的な改革」「原子力政策とエネルギー政策の抜本的な転換」を図り、「螺旋的発展の法則」(※) によって世の中が進歩して行く過程で、国民参加型エネルギー、地域分散型エネルギーである「自然エネルギー」を広げていくことが、解決の方向であると言う。長期戦である。一歩一歩前に進んでいくしかない。

日々本 第20回 針谷和昌)

追記)(※) :「螺旋的発展の法則」
螺旋という言葉が社会の発展の表現にも使われていることを初めて知ったが、「
頭の中が上向きの螺旋構造」と3回前のブログに書いたばかり。「螺旋」はかなりいろいろなものに共通するこの広い宇宙の、あるいは生命の、キーワードなんじゃないだろうか。

hariya  2012年2月02日|ブログ