ことしの本棚22『PRINT ACCESSIBILITY GUIDE BOOK』

以前、友人に誘われて皇居1周のランニング大会に出たことがある。僕が出たのは1周5kmの部門で何と99人中14位になったのだが、アイバンクが関わっていて視覚障害者の部門もあった。障害者の人たちは伴走者と共に走る。2人1組で走っているのを見ると、うまくいっているチームと、よくわからないがあまりそうでなさそうに感じられるチームもいた。ゴールの手前に自立式の時間表示盤があって、それで僕らは自分のタイムがわかるのだが、伴走者が気を許してしまったのか、ある障害者ランナーがバーン!という大きな音をたててその表示盤に激突した。僕は自分がどう走ったのかというより、このことが強烈な印象として残っていて、ことあるごとに思い出す。
 
学校をつくる会 第4回教室」の“聞き手”役に決まったことから始まって、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験し、そして今回「日本盲人マラソン協会 代々木公園練習会」に参加してきた。先に書いた驚きの体験の影響ももちろんあるし、最近の僕の関心が視覚障害の方へどんどんシフトしてきていることもあって、こういう活動があると知ってすぐに参加を決めた。当日の今朝、天気が良かったことも、僕の背中を後押ししてくれた。
 
代々木公園に集まって、簡単な主宰者からの挨拶と説明の後、初めての参加者の自己紹介から、この練習会が始まった。僕の番になって「走りながらいろいろ考えているうちに、ここに辿り着きました」と挨拶したら、笑ってくれる人もいた。初心者だけ集まって、専門家から伴走についてのポイントをレクチャーされた。そしてだいたい1.7kmあるらしいのだが、先ず初心者同士で2人1組になって、代わりばんこに目をつぶって、伴走者とランナーの両方の役を実地体験。そして、次の2周は、実際に視覚障害者の伴走。
  
僕と一緒に走ってくれた方はベテランで、本来リード役をしなければいけないこちらが、すっかりとリードしてもらった。前から何も来そうもない状態で、道もまっすぐで平なところを走っている時は、話をしながら走ればいいということで、そういう状態が何回かあって、お互いの話を少しずつした。そして僕が「本の宇宙」の話をすると、とても興味を持ってくれて、走り終わった後、リュックの中から取り出して「プレゼントします」とこの本をくれた。
 

 
『プリントアクセシビリティ・ガイドブック 音声でも読める印刷物の作り方』(発行人 望月優/執筆 後藤圭介,望月優,望月孝子,吉守里志/プリントアクセシビリティ研究会)
 
OCR (Optical Character Recognition) = 光学的文字認識 という、画像データから文字情報を取り出す技術があり、このOCRが組み込まれた「OCR組込音声読書機」を使うと、視覚障害者が、コスト面、時間的側面、情報量という側面から、そしてより自立的に、読書を楽しめるという。この読み取りが既存の印刷物の文字の使い方やカラーリングやレイアウトだとかなり大変で、読み取れない部分が多数あり、それをちょっとこう工夫するだけで、読み取れるようになる、つまり視覚障害者もより読書を楽しめるようになります、というガイドブックなのである。
 
年間の新刊書8万冊のうち、点字図書は200に過ぎない。デイジーという1957年から始まった本を朗読して視覚障害者に提供するというボランティア活動が徐々に広まっている。……など、この本には「本の宇宙」にとっても関係ある重要なことがたくさん詰まっている。今日の初心者である僕のリード役であり、この本の発行人兼執筆者である望月さんに感謝したい。今日の体験そして“出会いの1冊”によって、僕の走っていく方向がまた少し見えたような気がする。
 
ことしの本棚 第22回 針谷和昌)

hariya  2011年3月06日|ブログ