ことしの本棚20『ダイアログ・イン・ザ・ダーク』

「学校をつくる会」という活動を友人たちとしている。その会での活動が動機となって、「福澤諭吉記念文明塾」に入塾したし、その塾での活動の延長線上にこの「社団法人 本の宇宙」がある。つまり、僕の中では、これらすべては連結している。
 
「学校をつくる会」では「授業」というイベントをだいたい半年に1度行っていて、こんどの4月早々に予定している「第4回教室」は、僕が壇上でゲストの話を引き出す役目となる。詳しくは「学校をつくる会」ホームページ等でご覧になって頂ければと思うが、全盲の超プロフェッショナル鍼灸師をゲストに、というところまではすぐ決まったのだけれど、内容をどうするかでかなり考え、そしてメンバー同士でも考えをぶつけ合った。
 
そのやり取りが少し行き詰まったころ、メンバーの1人が「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」のことを話題にした。一度体験して目から鱗が落ちた、と。初めて聞くイベント名だったが、善は急げ、溺れるものは藁をも掴む。聞いた翌日には参加を予約し、その次の日には体験してみた。実際に“暗闇の中の対話”を体験してみて、ようやくゲストとのトークイベントの内容が自分の中で形になり、メンバーの賛同も得られ、先日やっと「第4回教室」を告知することができたのである。
 
さてその「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」。外苑前のビルの地下に入って行くと、通常のパターンでは、初めて会った8人が1人の目の不自由なナビゲーター(アテンドスタッフ)に連れられて、真っ暗な闇の中をいろいろと動きまわる。ぜんぶで約90分。ただし時計も見ることができないので、体感時間はもっと長く、それでいて後から考えるとあっと言う間の出来事だった。
 
まったく見えないので触覚と聴覚に頼る。たまに嗅覚も使う。人の声がとてもセクシーに聞こえる。その声、口調でその人のことがかなりわかる気がする。見えないから怖いのだけれど、まったく見えないので安心もする。そんな空間。初対面の8人は、一気に仲良くなる。僕の時はカップルが2組いた。相手の本質がわかる気がするので、より仲良くなるペアがいると思う。逆にもしかしたら、これをきっかけに別れちゃうペアもいるのではないか。そんなことを考えていたら、実際にそういうこともあったと本に書いてあった。
 

 
『まっくらな中での対話』(茂木健一郎 with ダイアログ・イン・ザ・ダーク/講談社文庫) 
 
読んでみるとわかるのだが、さすが茂木さん、既に11年前にこの「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」を体験している。専門家の茂木さんによれば「脳の三分の一が視覚領域」だそうで、視覚を使えなくすればその分、別の領域が活発化し、脳の全体性を回復し、それは癒しにも通じるという。
 
4月のイベントは真っ暗な空間でやる訳ではないが、果たしていろいろな感性が動き出す「授業」にできるかどうか。ゲストは魅力いっぱいなので、あとは自分次第ということになる。なんてあまり自分にプレッシャーをかけてもいいことはない。暗闇の中の自分と同じように、できることをやるしかない、と開き直って臨んでみよう。
 
ことしの本棚 第20回 針谷和昌)


hariya  2011年2月28日|ブログ