サッカー 本の宇宙 vol.26『岡田監督 信念のリーダーシップ』

岡田監督の評判が地の底から高い空の上まで急上昇した今回のワールドカップ。「サッカー 本の宇宙」には岡田武史監督に関連する本が2冊ある。1冊は、2002年ワールドカップを観戦しながら1回目の日本代表監督のとき(1997-98年)の エピソードも合間に綴った自著。もう1冊は、“能力活性プログラムのカリスマ・トレーナー”(著者略歴から)としてたくさんの著書がある児玉光雄氏が、岡田監督の「真のリーターシップ」に関する言葉を集めて解説した本。

『蹴球日記』(岡田武史/講談社)

『岡田監督 信念のリーダーシップ 勝てる組織をどうつくるか』(児玉光雄/ダイヤモンド社)

『蹴球日記』の表紙を開くと、最初にこの8文字が目に飛び込んでくる。

「人間万事塞翁が馬」

幸福や不幸は予測できない、幸福に思えることが不幸のもとになることもあれば、またその逆もある、ということだが、自分の人生の象徴となる言葉として、巻頭においたのだろうか。

97年ワールドカップ予選で加茂監督の解任の後を受けて監督になった直後、引き分けが続き結果が出ない。国立競技場での試合の後、サポーターが騒いでいる中、「何も悪いことはしていない」と正面から出ようとする岡田監督を警察が止める。「裏口から逃げるように出ていくという屈辱」をこのとき味わった、という印象的な話から始まる。

その後の韓国戦。メンバーに誰を選ぶか悩みに悩んでいた岡田監督は、自分が選手たちに「決して内容は悪くない。やっていることは間違いではない」と言ったことを熟考し、メンバーを一新したら「なんだ、監督、あんなこと言っているけど、やっぱりダメだと思っているんだ」と取られ、信頼関係が崩れると判断。「よし、同じメンバーでいこう」と決めたこの一瞬が、「この予選というより、大げさに言えば自分の指導者人生の大きなターニングポイントだった」という。

今回も話題となったフランスワールドカップ代表に三浦知良選手をなぜ選ばなかったのか、の理由も書かれている。考えに考えて考えて考えて、決断したら、その後はぶれない。そんな岡田監督の姿がこの本から見えてくる。

『岡田監督 信念のリーダーシップ 勝てる組織をどうつくるか』の著者・児玉さんは、数百冊の著書がある鹿屋体育大学の教授。もともとテニス界でコーチとして活躍し、鹿屋体育大学前任者の神和住純さんの後を受けて鹿児島へ赴任してから、続々と本を出している。

児玉さんがアメリカのコト・リサーチ・センターを体験して帰国してすぐの頃、もう25年前ぐらいに初めてお会いしたが、アメリカ・オリンピック委員会スポー ツ科学部門本部のことなどアメリカスポーツ科学最新事情を説明する児玉さんの熱弁を、ワクワクしながら聞いたことを思い出す。

さて、「サッカー 本の宇宙」には歴代日本代表監督に関する本が、岡田監督以外にもこれだけある。

◆第7・9代監督 長沼健
『時代の証言者 サッカー 長沼健』(読売ぶっくれっと/読売新聞社)※本コラム vol.12 で紹介(以下 同)
『11人のなかの1人』(長沼健/生産性出版)

◆ 第13代監督 川淵三郎
『川淵三郎 虹を掴む』(川淵三郎/講談社)
『「J」の履歴書 日本サッカーとともに』(川淵三郎/日本経済新聞出版社)

◆第19代監督 加茂周
『モダンサッカーへの挑戦』(加茂周/講談社)
◆第21代監督 トルシエ
『黄金時代 日本代表のゴールデン・エイジ』(フローラン・ダバディー/アシェット婦人画報社)
◆第22代監督 ジーコ
『ジーコ セレソンに自由を』(増島みどり/講談社)※本コラム vol.9 で紹介
『神の苦悩』(鈴木國弘/講談社)※本コラム vol.14 で紹介

◆第23代監督 オシム
『考えよ! ━なぜ日本人はリスクを冒さないのか?』 (イビチャ・オシム/角川oneテーマ21)※本コラム vol.6 で紹介(以下 同)
『オシムの言葉』(木村元彦/集英社インターナショナル)
『イビチャ・オシムのサッカー世界を読み解く』(西部謙司/双葉社)
『日本人よ!』(イビチャ・オシム/長束恭行 訳/新潮社)
『オシムの戦術』(千田善/中央公論社)※本コラム vol.14 で紹介

ちょっと調べてみたのだが、日本代表監督というのは、日本の総理大臣よりも、なれるチャンスは少ない(1951 年就任の初代の二宮洋一監督から岡田監督まで59年間で延べ24人。歴代総理大臣は1885年の初代の伊藤博文から今年の菅直人まで延べ61人)。そういう貴重な体験をした人々や、そのすぐ横にいた人々の話には、“リーダーシップ”を 考えるたくさんのヒントが(そしてその答えも)、残されていると思う。

(文・社団法人 本の宇宙)

hariya  2010年6月29日|データベース, ブログ