ことしの本棚43『おかしな本棚』

『おかしな本棚』(クラフト・エヴィング商会/朝日新聞社)
 

 
前回の『12人の「優しい書店人」』に出てきた「文脈棚」の典型的な例、とも呼べる写真が並び、加えて説明のコラムがついている本と言えばいいのだろうか。ただ実際の本屋の棚は、どんなに凝っていたとしてもここまでは行かないと思うので、これは極端な例。ふつうの本屋がもう一方の極にあるとすれば、それなりに棚が人気のある本屋は、これら2つのちょうど中間ぐらいの案配ではないだろうか。
 
そう書きたくなるぐらい、とにかく本の並びが凝っている。新しい本と古い本が隣同士に並んでいたり、古い本だけのシリーズで埋め尽くされていたり、単行本と新書と文庫が上手く並び合っていたり、横にして積み上げられていたり、面陳で向田邦子が微笑んでいたり…筆者の好きなように並べてある本は、どれも皆魅力的で、すべて手に取ってみたくなる。が、ひとたび配列や並びを変えたり、別の本を入れたりすれば、それはまた別の雰囲気になって、どう見えるかはわからないということもよくわかる。
 
著者名のクラフト・エヴィング商会というのは、本を作ったり装幀やデザインの仕事をしていて、吉田篤弘というこの本の実際の著者とその奥さんでやっている仕事の屋号。そしてここに出て来る本は、二人がそれぞれ集めてきた本群。つまり、二人の個性が合体した文脈棚集なのである。
 
ここまで書いて来て思ったのだが、いま慶応義塾大学三田キャンパス生協書籍部で展開している「本の宇宙の就活生に向けたコーナー」には、“慶應の文脈棚”が出来ている、と言えると思う。正確に言えば、慶應の文脈棚のひとつが、そこにある。
 
文脈棚をたくさん創っていくこと、それが書店でも図書館でも、最大の魅力になるのではないだろうか。どの本も手に取ってどの本も読みたくなる場所。そういう本の環境を創ることが、われわれが目指す知的環境づくりなのではないかと、そう思わせてくれる“本棚の本”なのである。

 
ことしの本棚 第43回 針谷和昌)

hariya  2011年5月06日|ブログ