今年の3冊 (3)

「今年の3冊」松尾愛子


『20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義』(ティナ・シーリング/阪急コミュニケーションズ)



この本は、私に新しい気づきを教えてくれたというよりも、今自分の歩んでいる道の正しさを教えてくれた本であった。私たち(社)本の宇宙の活動が始まったきっかけである、福沢諭吉記念文明塾で行われる政策提言プログラム、これも「社会起業家精神」を養うプロジェクトであった。去年の塾と仲間との出会い~今年の実際の活動を通して、今年は私にとっては起業家精神を信じて歩んでいこうと決心した年でもあったので、この本に書いてあることはとてもしっくりきた。

この起業家精神とはつまり「2時間で5ドルを数百ドルに変えられる」という、自分で考えて行動し、何もないところから何かを生み出す精神であり、どうやってこの精神が幸運を創りだすのかが書かれている。ただ、この本はマニュアル本ではなく、スタンフォード大学での授業が書かれたノンフィクションである。とはいえ、米国の大学には素敵な授業があるからやっぱり留学だ、という話でもない。教育を受け直すには時間がかかるが、この本を読んで考え方の転換をはかるのは数時間あれば十分である。そうすれば、「レモネードをヘリコプターに変える」だけの創造性を備えた人になる可能性は、無限である。

『電子書籍の衝撃』(佐々木俊尚/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

今年2010年は電子書籍元年となった

私は今のところ日頃の読書は紙の本を読んでおり、そもそも昔から図書館のような本に囲まれる空間も大好きだ。しかし、だからと言って、電子書籍を否定しているわけではない。電子書籍の利点・可能性は享受していきたい。個人的にもそう思っているし、我われ(社)本の宇宙としてもそのように思っている。そこで私としては電子書籍の是非ではなく、「電子書籍化に伴い生じる、出版業界におけるビジネス形態の変化について」述べている点がこの本を読んでいて非常に興味深かった。

電子書籍化というのはセルフパブリッシングを可能にし、もはや媒体としての出版社が必ずしも必要でなくなるということである。これは著者の佐々木氏が『2011年、新聞・テレビ消滅』(文春新書、2009)でも同様に述べていた。

CDや新聞販売にも同じことが言え、個人が本や楽曲や情報について自ら売り出す際のプラットフォームとしてネットをいかに使うかで、従来の大きな販売ルートや広告力を持つ会社に属さずにも、個人でビジネス・発信をすることが可能になるというのである。「電子化」によって地球規模でのビジネスのあり方が大きな転換点にあるということで、つまりそれは上記の起業家精神と関連するが、個人や社会のビジネスマインドの転換も図らねばならない岐路に立っているということだ。

『多極化世界の日本外交戦略』(神余隆博/朝日新書)



本については「電子書籍元年」であったわけだが、安全保障の面では今年、日本が戦後初めて真剣に自国の安全保障について国民レベルで議論が盛んになった、「安全保障議論元年」であったと言える。日米同盟が50周年を迎え、普天間問題が日本全土を巻き込んだ選挙の争点となり、また国民による情報開示というセンセーショナルな事件を伴った一連の尖閣諸島問題も起こった。そこで外交に関する本も一冊挙げたい。

この本は、国連代表部大使経験もある現ドイツ大使の神余氏によって書かれており、227ページ全てマーカー入れをしたくなるほど、日本外交のあり方について示唆に富む記述のなされたものだった。この多極化世界において、どのようにこれまで二国間外交を行ってきた日本の外交の担い手が多国間での外交力を発揮すべきか(マルチ外交)が書かれている。特に日本人が克服すべき課題に社交性とレトリックの術を挙げ、そもそもの外交感覚の欠如を指摘している箇所を始め、外交官に限らず、政治家、さらには個人においても世界で活躍していくべき今日において非常に学ぶことは多い。

この多極化時代に於いて、外交官はもちろん、国民レベルでも外交感覚を持ち合わせて安全保障に関して議論が出来るようになると、国民の議論のレベルとしては数段高くなる。最後に、このマルチ外交の時代において、他国の外交戦略の理解に役立つ本として以下2冊は今年じっくりと読んだが、是非オススメしたい。

『外交 上・下』(ヘンリー・キッシンジャー/日本経済新聞社、1996)

『猛毒国家に囲まれた日本―ロシア・中国・北朝鮮』(宮崎正広・佐藤優/海竜社、2010)

matsuo  2010年12月30日|ブログ