日々本 其の三百七「思惟する天文学」

『思惟する天文学 ―宇宙の公案を解く―』(佐藤勝彦 池内了 佐治晴夫 渡部潤一 高柳雄一 平林久 寿岳潤 大島康郎 的川康宣 海部宣男/新日本出版社)

気になる科学者・天文学者の名前が並ぶ。17年の歳月を経て同じ人が「宇宙とは?」について語っている。どれも面白いが、とくに最初の3人が興味深く、さらにその3人目の佐治晴夫を読んでいると宇宙の彼方が自分のすぐそばにあるような感覚に陥る。

1995年には「原子の集合体である脳が、自身を造っている原子のことや、それらを無から生み出した宇宙について想いを巡らしていることの不可思議」と語る。「現代宇宙論では、宇宙の創生を『無』の状態から秩序が生まれることだと考えています」という言葉も印象的。

そして2012年。「自分という単語は『自然』の『分身』という二つの単語からの複合語のようです」「ここで興味深いのは、すべての存在は相互依存しながら持続しているというからくりです。たとえば、植物は、原始地球の大気である二酸化炭素を吸収して、酸素という排気ガスを放出しながら生きていますから、酸素で地表が覆われることは、植物の生息をおびやかすことになります。そこで、植物の特性を保つための根幹物質である『クロロフィル(葉緑素)』の電子配置を少しだけ変えて、動物の血液の根幹物質である『ヘモグロビン』を造ります。植物から動物への分化です。こうして、植物は、自らが放出する排気としての酸素を、逆にエネルギー源として使い、植物に必要な二酸化炭素を排出する動物を造り、たがいに共生するという関係を築きました。自然界の驚くべき知恵です」

自然の力には太刀打ちできないなぁと思う。植物が動物を生み出し、それからわれわれが生まれた。われわれは自然の分身。宇宙の力を想起させる言葉がスッスッと出てくる佐治晴夫の著作は、空を見上げることを忘れないように、いつも本棚の見えるところに置いておかなければと思う。

日々本 第307回 針谷和昌)

hariya  2013年10月04日|ブログ