日々本 其の二百九十四「放射線」

『放射線と冷静に向き合いたいみなさんへ』

(ロバート・ピーター・ゲイル&エリック・ラックス/朝長万左男 監修/松井信彦 訳/早川書房)

読んだからといって即座に放射線についてすべて理解できる訳ではないのですが、少しでも知ることは自分の力になると信じて読みました。ここ2年で親しくなった福島の学校の先生は、物理学が専門で、だからいつも冷静。ここら辺はこの程度なら大丈夫、というコメントを何度も聞きました。そこまではとうてい到達しないけれども、全く知らないより少しでも知っていた方が良いと思って読み続けました。

放射線は見えません。臭いません。そして即座に感じません。例えば吐き気を感じるなどという事態にならないと、自覚症状はない訳で、「吐き気は少なくとも1000ミリシーベルトの被爆を意味している」そうです。「二日後には放射線でやられた造血細胞が死に、貧血や出血や感染症が発症する」ということで、その時点では既に大変なことになっているということです。

通常、毎年、数ミリシーベルトの放射線を自然にわれわれは浴びていて、アメリカは平均6.2、日本は平均3.8ミリシーベルトだそうです。「科学者のあいだでは、ある程度(一般に50ないし100ミリシーベルト前後)を超えると被ばく量とがんリスクに直線的な関係があることについて異論はな」く、「低線量被ばくが健康にいいかもしれないという」考え方「ホルミシス」を支持する科学者はほとんどおら」ないということです。

生涯のがんリスクは、喫煙者が10人に1人、腹部CTスキャンが1000人に1人、福島が10000人に1人だそうで、何と気をつけなければいけないのは、医療のレントゲン検査など。健康のための検査が、健康を害すことが指摘されています。著者の1人は医師であり博士、監修者は日本赤十字社長崎原爆病院院長で、それらの肩書きはこの本の信頼性を確実に高めています。一方、世の中にはレントゲンを薦める医者もたくさんいる訳で、自分自身の感覚が自己矛盾しています。その原因を、うまく説明できないところに、この問題の難しさが表れているようにも思います。

日々本 第294回 針谷和昌)

hariya  2013年9月08日|ブログ