日々本 其の二百七十九「絵のお医者さん」

『モネ、ゴッホ、ピカソも治した絵のお医者さん 修復家・岩井希久子の仕事』(岩井希久子/美術出版社)

先ず表紙が綺麗だなと思う。モネの「睡蓮の池」。帯に隠れたところをもっと見てみたいと帯をはずそうとすると、帯とカバーが繋がっている。カバーの下の部分を折り返して、裏側が帯になっている。こんな本、初めて。新しいことに挑戦し続けている著者らしい装丁。

絵の修復家。とてつもない根気と集中力と持続力とセンスが要る仕事。写真もたくさん載っていて、こんなに痛んでいる絵が、こんなにも修復できるのか、という驚きに満ちている。

「必要最低限の修復をして、それをいかに保存するかが重要」と謙虚に言う著者にとっての天職と思えるし、他になかなかできる人はいないのではないだろうか。長女が跡を継ぐために勉強中だそうで、そうやって伝統芸能のように、継承していくべき職人芸のように思う。

装丁だけでもこの本を買う意味がある。写真とキャプションを眺めているだけでも意味がある。画家の作品集に勝るとも劣らない修復家の作品集である。

日々本 第279回 針谷和昌)

hariya  2013年8月09日|ブログ