日々本 其の二百六十七「現代倫理学」

『現代倫理学入門』(加藤尚武/講談社学術文庫)


前野隆司先生のお薦めの著者の本。「われわれの人生にはつねに決断、比較、商量、選好がある」ということで、いろいろなケースでの選択を迫られる(著者から迫られる訳ではないが、真剣に読めば読むほど選択してみることになる)。「サバイバル・ロッタリー」という未来のあるユートピアの世界がある。「生存くじ引き共済組合精度」。正義の大原則が「生存率を最大にせよ」。それは「最大多数の最大生存」「生存率の促進」「生存率の増大と死亡率の減少」を選べということ。

そうなると10人の人が不治の病にかかったが、それを治す特効薬が1人分だけある場合、次のどれを選べばいいのか? 1)くじ引き 2)社会に最も貢献しそうな人(ex.世界的なバイオリニスト)を選ぶ 3)最も高額なお金を払う人 4)道徳的に最もふさわしい人(ex.犯罪で被害を受けた少女) 5)皆死んでもいいから均等分け 6)最大の効率を発揮させるように配分

最後の配分はよくわからないが、さてどれを選ぶか?僕は 1)を選んだ。平等原理だそうだが、でもこれは当然のことながら「最大多数の最大生存」の原理とは一致しない。似た様な話で、これはこの本には出て来ないけれど、トロッコのジレンマというのがある。暴走トロッコの行く先には5人が作業していて、そのままだと皆ひき殺される。分岐点を操作してコースを変えれば、そちら側では1人が犠牲になる。さて、分岐点の操作ができるあなたはどうする?という問い掛けである。

塩狩峠』では、自らが多くの命を助けるために犠牲になる話だ。それとはまた違い、自らが操作して直後に犠牲者になるであろう人の数を減らす、あるいは生き残る人の数を増やす、ということである。これも難しい。4年前にこの話を聞いてからことある毎にずっと考えているが、いまだにすっきりとした答えが出ない。

今回ふとこんなことが頭に浮かんだ。人間は、個々が生存しようと最大限つとめることが、種の保存に最適だからそうプログラムされていて、それに反する行動が重なれば結局は種の保存ができないのではないか。つまり、誰かが操作するのではなく、自然に任せるのがいちばんなのではないか…。前述の特効薬のケースはまだすっきりと説明できないのだけれど、少しトロッコの答えに近づいたのではないだろうか…。

日々本 第267回 針谷和昌)

hariya  2013年7月14日|ブログ