日々本 其の二百三十七「甘苦しくて」

『なめらかで熱くて甘苦しくて』(川上弘美/新潮社)

タイトルがいちばん艶かしい、と僕は思う。と言うかあまり内容が艶かしくあって欲しくないという無意識を心の底で働かせながら読み進めていた気がする。だから必要以上に速く、飛ばすように読んだのではないか。きっと僕が川上弘美に求めているものが艶かしさではないからかもしれない。

5つの短編が連なっている。初出はいずれも『新潮』。08年1月号、08年8月号、09年1月号、09年7月号、12年9月号にそれぞれ掲載。つまり、東日本大震災前の4編、震災後の1編。最後の1編が、他のものとはちょっと違うように感じるのは、書かれた時期によるものだろうか。

この最後の短編「mundus」を読んでいて、生と性と死が隣り合わせになった不思議な感覚を感じた。いちばん艶かしい。そして艶かしいにもかかわらず、著者の童話が読みたいなと思う。童話でなくても、この路線での続編、変形版、進化したもの、いっぱい詰まったもの、が読みたい。mundus を調べるとラテン語で世界、宇宙。こんな小説の宇宙に浸りたいと思う僕は、どうやらこの小説にやられてしまったようである。

日々本 第237回 針谷和昌)


hariya  2013年5月15日|ブログ