日々本 其の百九十九「紀伊國屋書店」

家の近くの街にあって会社の近くのビルにも入っている僕にとって最も馴染みのある本屋「紀伊國屋書店」。行けない日が続いた後ひさしぶりに行ってみると、以前本を買った時にもらったブックガイド『キノベス!』(KINOKUNIYA BEST BOOKS)いち押しの『ふくわらい』(西加奈子/朝日新聞出版)がずらっと店頭に並んでいる。欲しいなぁと思いながら手に取るのを我慢して中に入ると、新聞広告で見て気になっていた『カウントダウン・メルトダウン』(船橋洋一/文藝春秋)の上下巻が積まれている。上巻は「カウントダウン」を、下巻は「メルトダウン」の文字をそれぞれ大きくして、上下の違いをわかりやすくしている。2巻ものなのでちょっと手強いなと思いながら、そのままいつもの通りの右回りのルートを辿ると、科学のコーナーに『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(内澤旬子/岩波書店)『「つながり」の進化生物学 はじまりは、歌だった』(岡ノ谷一夫/朝日出版社)。どちらも“本酔い”していたら絶対に買っていると思う。今日はグッと我慢して、小説のコーナーへ。今まさに旬の芥川賞『abさんご』(黒田夏子/文藝春秋)が平積みに、そして直木賞『何者』(朝井リョウ/新潮社)、同じ朝井リョウの『もう一度生まれる』(幻冬舎)は書棚にズラッと並び、その反対側には『本にだって雄と雌があります』(小田雅久仁/新潮社)が平積みに。どれも読みたい。どれもこれも我慢してさらに奥へと進んで行くと、前回の芥川賞『共喰い』(田中慎弥/集英社)が早くも文庫に、そして新書のコーナーには『ブラック・マネジメント』(丸山佑介/双葉新書)。ブラックなものにはどうしてもそそられるパワーがある。漫画コーナーの前に、ふっと置いてある感じの『収奪の星 ―天然資源と貧困削減の経済学』(ポール・コリアー/みすず書房)という渋い本。さらに出口付近には前回の直木賞『等伯』(安倍龍太郎/日本経済新聞出版社)、これも上下巻…。

そういう幸せな回遊をした暁に、買ったのは文庫1冊。『三国志(一)桃園の巻』(吉川英治/新潮文庫)。いま集中的にインタビューしているトップアスリートが好きだということを、そのお母さんから聞いていたので、いまだからこそ読むべき本なのではないかと思った。ただし全10巻。途中でやめられない。読み通すことができるだろうかと、その結論が出ないまま、取りあえず1巻読んでみようという結論。とにかく本を買うには、理由がいる。何か自分を後押しして、手に取ってレジへ向かわせる力が必要となる。これが例えば大きな仕事が終わっての解放感溢れる回遊だったら、ここに出て来た14冊のすべてを購入していたのではないかと思う。この日はそういうことではないし、まだ読んでいない本が家に溜まっているので、「我慢、冷静に」と心の中でつぶやきながら歩いた。回っているうちに気がついたけれど、紀伊國屋は本のレイアウトを変えて、本棚の奥に面陳してその前に平積みという新たなディスプレー手法をとっているコーナーがあった。「う~ん、かなり、やる気だ」。本屋がやる気だと、こちらも随分楽しくなる。

[いつか買うのではないだろうか...という本]

『ふくわらい』(西加奈子/朝日新聞出版)
『カウントダウン・メルトダウン(上)(下)』(船橋洋一/文藝春秋)
『飼い喰い 三匹の豚とわたし』(内澤旬子/岩波書店)
『「つながり」の進化生物学 はじまりは、歌だった』(岡ノ谷一夫/朝日出版社)
『abさんご』(黒田夏子/文藝春秋)
『何者』(朝井リョウ/新潮社)
『もう一度生まれる』(朝井リョウ/幻冬舎)
『本にだって雄と雌があります』(小田雅久仁/新潮社)
『共喰い』(田中慎弥/集英社)
『ブラック・マネジメント』(丸山佑介/双葉新書)
『収奪の星 ―天然資源と貧困削減の経済学』(ポール・コリアー/みすず書房)
『等伯(上)(下)』(安倍龍太郎/日本経済新聞出版社)

日々本 第199回 針谷和昌)


hariya  2013年2月18日|ブログ