日々本 其の百四十一「松丸本舗」

『松丸本舗主義』(松岡正剛/青幻舎)

東京駅丸の内北口を出て信号を渡ったところにあるオアゾ。その中にある丸善書店の1階から店内エスカレーターで4階へ上がったところにあった「松丸本舗」。松岡正剛の「松」+丸善の「丸」。その名の通り両者のコラボレーションプロジェクトから生まれた本屋内本屋。65坪に700棚、5万冊。2009年10月オープン、2012年9月クローズ。

その松丸本舗の挑戦の記録となるこの本を開くと、カラー写真ページが先ず連なる。そのページのタイトルを見ただけで、他に類のない本屋だったことがわかるのではないか。「観読」「林読」「絵読」「凝読」「棚読」「半読」「臥読」「装読」「贈読」「共読」「呈読」「孤読」。本のサブタイトルは「奇跡の本屋、3年間の挑戦。」

僕自身、比較的よく行った本屋であるが、行く度にまさに“松岡正剛の脳”の中を見る思いがしたし、さらに言えば“松岡正剛の内臓”が剥き出しになったゾーンの様に感じた。よく覚えているのはここで買った『内臓のはたらきと子どものころ』(三木成夫/築地書館)が家に帰ったら本棚に既にあって、本の宇宙の仲間にプレゼントしたこと。松岡ワールドの怒濤の迫力に思わず買ってしまった感じだし、無意識に“内臓”がリンクして購入したのかもしれない。

松丸本舗主義のテイストは「深い、凄い、柔らかい、変」だそうであるが、「棚読」していると「この棚を丸ごと買わないと」と思わされてくる。そういう意味で、「重い」感じがしたし、それはプロデュース側の「思い」や「想い」「念い」「憶い」がもたらしたものではないかという気がする。

ともかく、奇跡の本屋の挑戦が、3年間で終わってしまったのは、残念と言うしかない。本の宇宙が参考にすべきことがたくさんあって、これからも様々なトライ&エラーの先駆者として引っ張っていってほしかったと思う。継続しなかったということは、予想以上には本が売れなかったということだと思うが、「本が売れなくなっている」という状況を奇跡の本屋でも払拭できなかったならば、これからどんなことをやっていけばいいのだろうか。そのヒントがたくさん潜んでいるこの本が、新しい挑戦の土台にあることは間違いない。

日々本 第141回 針谷和昌)

hariya  2012年10月23日|ブログ