日々本 其の百十三「なでしこ」

なでしこジャパンというニックネームを持つ女子サッカー日本代表チームは、昨年のワールドカップで優勝し、先日終了したロンドンオリンピックで準優勝を果たした。その成績と並んで、なでしこには「他にないものがある」と僕は感じる。彼女たちの試合からは勇気をもらえる。そして何とも言えない清々しさを、勝っても負けても味合わせてくれる。

その秘密はどこにあるんだろう?オリンピックを見続けながら考えていて、ちゃんとした答えが出ない中、以前出てオリンピック直前に文庫になったこの本を見つけた。

『なでしこ力』(佐々木則夫/講談社文庫)


サッカーレフェリーの第一人者・西村雄一さんから「なでしこリーグは本当に反則が少ない。1試合で5個あるかないか。それほどひたむきにプレーしているんです」という話を聞いた。ワールドカップ優勝後である。強くてフェア。それって、男子を含めた世界のサッカーをリード出来るではないか、そんな素晴らしいサッカーを日本“発”で世界に普及、発展できると思いは膨らみ、僕はとっても嬉しくなった。

西村さんの話を聞いたのが去年の暮れから、ずっとこの話を大事にしてきて、僕はことある度にいろんな人に話してきたのだが、何とワールドカップの前の時点で、世界のサッカーがなでしこをお手本にしているということを、この本に佐々木監督自身が書いているではないか。

アメリカ女子監督が、強いだけでなく見ていて楽しいサッカー、日本は女子サッカーの未来を示している、と話したり、2010年ワールドカップ(男子)に出たニュージーランドチームが、なでしこジャパンやU-20、U-17日本代表のプレーを、お手本として研究しているそうである。「今、なでしこジャパンのサッカーは、世界の女子サッカーのスタンダードになりつつある。」「世界各国の女子サッカーが、日本化を目指そうとしている」(P121)

そんななでしこを率いる佐々木監督の信念は「サッカーにおける最高の戦術とは、選手が『自分らしさに自身を持つこと』なのだ。」(P129) ということで「規則や命令で選手をガチガチに管理するのではなく、伸び伸びと、自分らしい感性を表現させたほうが、サッカーはうまくいくものだ。」(P128) ということである。

タイトルにある「なでしこ力」とは何か?「心を一つにする。」「厳しく濃密なトレーニングにも高い集中力で取り組む。」「崖っぷちに追い込まれても絶対に諦めない。」「どんな相手にも、臆することなく普段どおりの自分を表現する。」「そして何より、大好きなサッカーをとことん楽しむ。」(P11) これらは日本女性に備わるポジティブなパワーだそうである。

世界をリードするなでしこ。もし監督が代わったとしても、日本女性に備わるポジティブなパワーを、ずっと持ち続けてくれるだろうか。そのためにも、まだ澤穂希選手の代表引退は早い。

(日々本 第113回 針谷和昌) http://booklog.jp/users/hariya

hariya  2012年8月20日|ブログ