日々本 其の二十八「メルトダウン」

朝日新聞に連載中の『プロメテウスの罠』はある時からずっと読んでいるが、ドキュメントとしてのリアル感が出色。菅総理が第一原発にヘリで着いたあと建物へ入る際になぜか放射線検査の列にしばらく並んでしまって、菅総理自身がそのおかしさに気づいて「何をやってるんだ」と言ったという話が最も印象的なのだが、執筆者は違えど同じ朝日新聞の記者(現在AERAに出向中と著者略歴にある)が書いた本という新聞第1面の広告を見て、同等かそれ以上と期待して購入。(前に読んだ『ねこ背は治る!』も同じく1面の広告を見て購入、個人的には新聞広告の効果あり)

『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(大鹿靖明/講談社)

3月11日午後2時46分「東京電力の福島第一原発はまず、地震の揺れによって壊滅的な被害を受けたのだった」とまず言い切って、『プロメテウス』に通じるリアルな感じで始まり、その時なんと6,350人の人が第一原発にいたという数字が語られる。

菅総理が検査の列に並んだということにはこの本では触れていないが、廊下では作業員が仮眠のためごろ寝をしていて素っ裸な男もいて、ぐったりした男たちが占める廊下を縫うようにして会議室へ向かったという。

海水注入を止める指示を受けた現場の吉田所長は、担当者を呼んでTV電話会議のマイクや周囲に聞こえないように、これから中断を指示するけれど絶対にやめるなと伝えてから、大声で「海水注入を中断」と叫んだという。

2号機の爆発という大変な緊急時にも、稟議書を回して最後に社長が承認している東京電力の様子も紹介されている。それが第一原発から第二原発への「退避」の稟議書だった。その後「ありえない」と菅総理に一蹴された清水社長は「あ、はい」と引き下がったそうだ。

東電・勝俣会長は1号機が爆発して18日後にメディアの前に姿を現し、そのコメントは「責任追及をかわす防衛線からは一歩も交代しなかった」という。

「東電の社長、会長をつとめ、経団連会長にまで上り詰めた平岩外四が、蔵書3万冊の読書家で、稀代の教養人でいられたのも、それだけ時間的な余裕があったからだったとも言える」という話は、東電は巨額な資金を調達できてしかも独占企業なので競争がなく、経営陣は緊張感を失っていくという記述に続いているが、なるほど、読書家・愛書家はこう見られる場合もあるのかと勉強になる。

今回の事故が地震が原因なら日本中の原発の耐震設計をやり直したり、耐震設計審査指針を抜本的に改めたり、原発の再稼働を見合わせたりということになって、責任省庁の経産省は地震でなく津波のせいにしたかったという。

海水注入中断は菅総理のせいという話は、安倍晋三のメルマガから始まり、TBSと読売新聞が前のめりに報道して広まったが、一度は経産省が捏造もとと疑われたが濡れ衣で、実際には東電からなのではないか。その東電は被害者という意識から抜け出せず、加害者扱いする菅政権を怒っていた、という。

「経産省は電力業界や原子力村とカネとポストでがんじがらめに結びついてきた」「密接不可分なほど両者が一体化している」ことに、「思い切った改革が必要と誰もが感じているが、誰も改革できない。経産省と電力業界の作り上げた秩序は頑健だった。菅内閣は8月30日、総辞職した」というところで終る。問題点は、すべて抽出されているドキュメントなのではないかと思う。

「あとがき」では東電の経営陣、経産省の官僚、原子力安全委員会や保安員の専門家、銀行家、政治家、そのいずれもが「メルトダウン」していたと書かれている。それぞれが自分の組織に縛られている。その立場を変えれば、おそらくものの見方も意見も態度も変わる。180度正反対の行動を取る可能性もあると思う。原発問題を考えていくと、僕の中では必ず組織の問題に行きつく。組織とは何だろうか?

日々本 第28回 針谷和昌)

hariya  2012年2月16日|ブログ