ことしの本棚86『判断と決断』

『判断と決断』(中竹竜二/東洋経済新報社)

ラグビーの中竹竜二さんとサッカーの岡田武史さんは似ている。

ひとつは選手から自分への低かった信頼度を誰よりも考え抜くことで高めていったこと。そしてまだ起きていない未来を想像し多くの人から避難を浴びながらも自分の決断を貫いたこと。

中竹さんは早大ラグビー部の監督を清宮克幸氏から、岡田さんはサッカー日本代表の監督をイビチャ・オシム氏から引き継いだ。いずれの前任者もその世界のカリスマである。

中竹監督は二軍の決勝戦でそれまでチームを牽引して来たキャプテンをメンバーから外した。岡田監督はワールドカップ前のギリギリの段階でカズをメンバーから外した。外さなくても早大二軍はもしかしたら優勝していたかもしれないし、カズを外しても日本のワールドカップ初出場は3連敗という結果に終って、著しい成果は出なかった。

どちらも「まだ起こっていない」ことを想像して事前に対処した。未然に防いだものはわれわれただ見ている側からすれば、何が防がれたかがわからない場合がほとんどである。

だからうまく行かなければ避難される。でもそうしていなければもっとうまく行かない結果に終っていたかもしれない。いや、だからこそ、そう決断する。混沌を整理した「判断」のもと、時間軸を越えて未来へ飛び、覚悟を決めて動き出す「決断」によって、未来を変える勇気。その勇気の最後の一押しは、ワクワクするかどうかだそうだ。

熟考と勇気。それらから生まれる知性と男気。2人から共通して受ける迫力の根源は、そこにあると思う。

ことしの本棚 第86回 針谷和昌)

hariya  2011年12月04日|ブログ