ことしの本棚56『放射線の話』

「放射線」とは何なのか?いつか消えてなくなるものなのか?人から訊かれても答えられない。果たしてそれを書いている本はあるのか?そうやって何冊かの本を集中的に読んだ。
 

 
『放射線の話』(大朏博善/WAC BUNKO)
  

・放射線は物質をつくっている原子のなかの原子核から出てくる

・原子核がつくられるとき中性子の数が決まった数よりずれることがある

・光速で跳ぶ光子であったり、高速の粒子の流れであるのが放射線

・極めて小さな粒子であり極めて小さな波長を持つ波でもある

・わたしたちの身体に簡単に侵入し突き抜けたりする

・その行程でわたしたちのKら打をつくる細胞や微細組織に何らかのダメージを残す可能性が高い

・電離とは一体化していた化合物や分子がバラバラに分離してイオンを生むことを意味する

・原子の中にはエネルギー的に落ち着かない不安定な原子があり、原子核が壊れて姿を変えることで安定な状態になろうとし、その時に放出される余分なエネルギーが放射線である

・地上で生活している私達が受ける1年間の平均の自然放射線の量は 2.4ミリシーベルト

・寿命80年とすると一生涯に受ける放射線量は 192ミリシーベルト

・放射線が細胞に与える作用は、先ず放射線そのものが細胞中のDNAを切ることがあり、また電離作用によって水分子などが活性化してDNAを切断したりDNA文字である塩基を破壊したり欠損したりする

・「しきい値」造血機能低下:500、一時不妊(精巣):150、永久不妊(同):3,500、一時不妊(卵巣)650、永久不妊(同):2,500ミリシーベルト

・「チェルノブイリ原発事故」死亡者:31人、重傷者:200人以上、避難:635,000人

・事故翌日の空中で平均10ミリシーベルト/時

・シビアアクシデントとは最終的にはウラン燃料までが溶けてしまう事態、国と電力会社の発生確率予測は100万年に1回と評価
  

大はずれの発生確率によると、われわれは100万年に1回の事故に遭遇していることになる。この本はノンフィクション作家が書いているので、一般のひとにも読みやすいものだと思う。

 

  

『放射線のひみつ』(中川恵一/朝日出版社)
 
こちらは東大病院放射線科准教授が書いた本。5/10の現状から「今回の原発事故による放射線被ばくで(中略)一般公衆において、がんは増えないと予測できます」と言い切っている。

・放射線は物質に電離を与える光や粒子

・物体を突き抜ける能力の高い光や粒子

・放射性物質は放射線を出す物質

・放射能は放射線を出す能力

・放射性物質は放射線という目に見えない光を放つ花粉のようなもの

・放射性物質は安定していない状態の物質なのでより安定的な物質に変化しようとして、その時エネルギーを放出、これが放射線の正体、安定した物質に変わってしまえばそれ以上放射線は出ない

・食物に含まれる放射能をどれだけ被曝するかは放射性物質の種類、取り込み方、年齢などによる

・大気圏核実験が行われた1950-60年代の放射線量は現代の1,000倍近く

・放射性物質はしばらくかたまり(ブルーム)になって移動する

・コンクリートの建物内では被曝量は1/5以下になり、木造家屋内では1/10減少する

・平時の一般公衆の年間放射線量限度は1ミリシーベルト、放射線作業従事者は50ミリシーベルト

・平時では自然被曝のほかに年間1ミリシーベルトまでの被曝を許している

ということで、大凡分かった気になったけれど、結局、放射線はなくなるのか否か?がまだしっくりと来ない。そこでさらに、現在、東大で放射線を勉強している学生の友人に訊いてみた。

今私が把握している知識をまとめると「粒子自体は無くならないが放射線は無くなる」という理解になります。まず初めに,放射線の簡単な定義をすると…

粒子の放射線とは,「空気中や真空中、物質中を高速で飛ぶ粒子で、電離作用を持つもの」を指します。

電離作用を持つ物質の種類の一部には、電気的にプラスやマイナスに帯電した物質が含まれます。

では「粒子はなくならないため、粒子の放射線はなくならないのか?」という疑問に対し、アルファ線の場合を用いて説明したいと思います。

アルファ線の場合の粒子は「ヘリウム原子」の形をしています(ヘリウムは自然の大気に存在する物質です。ただし放射線として、放射性物質から放出される場合、電気的にプラスに帯電しています。プラスに帯電しているヘリウム原子が飛び回ると、原子内のマイナスに帯電している電子が引っ張られ、原子内の構造が変化したりします。原子の構造が変わることで、細胞にキズがついたような状態になり、体に悪いわけです)。

「高速で飛ぶ」と言うように、ヘリウム原子は放射性物質から勢いよくエネルギーをもった状態で放出されます。空気中や物質中を飛ぶ過程で、通り道の近くにある空気中や物質中、人体の中などに存在する原子に影響を与えます。そして影響を与える毎に、ヘリウム原子のエネルギーは減っていきます。ある程度、他の原子などに影響を与えると、エネルギーが無くなります。

エネルギーが無くなると、粒子の動きが静まっていきます。静まっていく過程で、ヘリウム原子は物質中や空気中の電子を取り込み、電気的に中性になります。この時点で、粒子は存在しますが、ヘリウム原子自体の電離作用がなくなります(電気的に中性になったので)。かつ、エネルギーもなくなるため、高速で飛んで周囲の原子に影響を与えることもなくなります。

電気的に中性になったヘリウム原子は人体にほぼ無害です(ヘリウムは大気中にも自然に存在する物質です)。この時点で、「ヘリウム原子は存在しますが、放射線は消えた」ということになります。またベータ線の場合の粒子は「電子」で、こちらも同じような挙動です。こちらの場合はエネルギーが減ったのちに、他の物質に吸収されたりします(ちなみにベータ線で、電子ではない場合もあります。ただ学問的な厳密性を求められない場合であれば、『β線は電子』と暫定的に理解していただいても問題はないかと思います)。

ということで、こんなに懇切丁寧な説明でも半分理解したかどうか。やはり僕は文系なんだと改めて自覚した次第。

ことしの本棚 第56回 針谷和昌)

hariya  2011年6月21日|ブログ